持ち家のリアル

「無価値になる持家より、現金をのこした方がいい」というご意見

「無価値になる持家より、現金をのこした方がいい」というご意見

都築です。明けましておめでとうございます!

冬休み中に久しぶりに昔の同僚と飲みにいったところ、僕が主に住宅の売買仲介業をやっていることを知った友人から人からめちゃめちゃウザがらみされました。曰く「親に無価値の持家を遺されても困るし、現金を遺してもらった方が子どもにとってはいいので賃貸が合理的」というご意見でした。

あー、なんか論破王とかネットのご意見に感化された人のご意見だなと思いつつ聞いていましたが、プロとして話したところ納得してくれて持家がほしいとまで言ってくれましたw

同様のご意見をもっている人ってネット上にまあまあいます ———
なので、ここらで一度はっきりさせておきましょう ———
そう、プロとして———(『ザ・ファブル』に影響されている40代(男性))

古い家は無価値ではありません

論点1 持家は無価値になる

中古住宅は無価値?
「古い家は無価値?」

上記のご意見には論点が2つありますね。1つは持家は無価値になるという点です。もう少し詳しく聞きますと、お話を聞くと住宅は時間がたつと戸建てもマンションも土地の価値しかなくなるということでした。

なるほど。もっともらしいですね。「古い」というのが具体的にどのくらいの時間軸なのかはわかりませんが、結論として建物は価値がなくなるというのはマンションも戸建も物件によります。新築並みの価値が維持されるというのはやはりなかなかありませんが、かならず無価値化するかというと普通にそうとは言いきれません。

価値がなくなると主張する人がよく勘違いして持出す理屈に「減価償却」があります。ぱっと見、時間の経過とともに価値がなくなるような印象を受ける言葉なので勘違いしている人がまあまあいます。

持家は無価値ではありません。
減価償却後の価格は売れる価格ではありません。

減価償却とはそもそも会計や税務における固定資産の費用化をいいます。会計学的には事業に用いる建物や機械などの固定資産は取得した時に費用の前払いをしたと考え、事業に用いている期間などに応じて固定資産から費用に振替えます。この会計処理を減価償却といいます。このため最後は固定資産はほぼすべて費用化されて最後は簿価がほぼなくなります(減価償却は土地には適用されませんが)。

ここまで言ったらお気づきの方もいるでしょうが、減価償却により減っている固定資産の簿価は実際に売却できる価格と一致することはまずありません。実際、メンテナンスをしたりきれいにお使いになっているお宅は取り壊す必要なく建物に値段がついて売れることは普通にあります。

論点2 持家よりも現金を遺してもらった方がいい

もう1つがこちらですね。価値が減少していたり処分にお金がかかるような住宅よりも現金を遺した方がいいということですね。わかります。管理などが面倒でなく使い勝手のいい現預金の方がいいですよね。子どもでも解るもっとも(らしい)なご意見ですね。子どもと同じ発想ともいえますがw

持家より現金!
Cash is King!

実際は愛着のある家を手放したくないという心情的な理由で所有し続ける方も少なからずいるのですがそれは今はおいておくとして、このお話は賃貸の方がお金を遺せるという前提に立っているのがポイントですね。でも、賃貸は家賃や賃貸がかかり続けますがその点はどのようにお考えなんでしょうか。

不動産を少しでもかじればわかるのですが、賃貸物件に払う家賃は、同等物件を取得したときの住宅ローンの金利支払額と返済額や各種費用の支払いよりもほとんどの場合高くなります(ずっと大企業や官公庁の寮に入ったり手当をもらうなどの例外がありますが)。それなのに持家よりも貯金できるんですか?

実は賃料には大家が払っている不動産投資ローンの金利(住宅ローンの何倍もの利率です)、見積もりベースでの修繕費、物件の固定資産税などの費用が含まれています。そう。賃料には持家で発生する費用は漏れなく入っています。そこに更新料や保証料、賃借人負担の保険料など賃貸特有の費用があり、さらに大家の利益が加算されています。それなのに貯金が持家よりできるってなかなか斬新な発想ですねw

賃貸はそもそもお金たまらないよ・・・。

老後はこぢんまりとした物件に住むなどライフステージに合わせて移り住めば合理的でお金が残せるというご意見もありますが、率直に言って机上の空論というか楽観的過ぎるかと思います。ご本人にとっては「条件を落としたので相応に賃料をさげられるはずだ」という発想なんでしょうが、大家としてはあなたが条件を落としたかどうかなんて関係なくリスクを判断します。

そもそも高齢者になると賃貸が借りにくくなります。高齢者に家を貸すのは大家や大家に管理を任されている不動産屋にとってはリスクだからです。体調を崩しやすく賃料の支払いが不安定で万一のときは原状回復に莫大な費用がかかるのに強力な借地借家法で守られて追い出すことができないのが高齢者です。大家としては当然入居に前向きになれませんし貸すなら賃料を上げたいですね。司法書士として多くの高齢者案件に携わった太田垣章子さんが著した「老後に住める家がない!」という有名な本があります。内容は割愛しますが、資産の有無にかかわらず借りられないことは普通にあることがわかります。

このため家賃と各種費用が高いサービス付高齢者住宅やさらにお高い介護施設にでも入るしかなくなるかもしれません。それだとそもそもの目的だった経済的合理性どっかいっちゃいますがw

(狭い家に引っ越すのにそれほど安くならないって話と違うし、そもそも借りられないなんて想像していなかった…。)

また、住宅ローンの残高があることは預貯金のマイナス残高ではありません。ローンが残っていても貯金はできるので当然ですね。住宅ローンは預金額の住宅ローンの支払金利は年利1%もしない一方で、J-REITや投資信託や株式で運用すれば受取れる配当利回りは年利3%を余裕で超えるものは普通にあります。つまり、住宅ローンを返済期限をフルに使って返済して、前倒し返済に回すこともできたお金を高利回りの有価証券に投資すれば預貯金はできるし(もちろん元本割れや値上りのありますが)住宅ローンの金利と配当利回りの金利差も得られます。

おまけの論点

最後におまけの話についていいますね。

いうまでもなく、持家ならローンを払った後に当然その家は自分の資産になります。賃貸はそれがありません。仮に建物の評価額が0円になってしまったとしても土地代は残ります。「持家は投資としていまいちなので賃貸派です」と言ってしまう人がいますが、持家を持つことを経済的な投資に位置付けるなら、賃貸は経済的には1円も残らない浪費と言えます

極端な話、マンションはもちろんこんな感じの戸建でも土地代はちゃんとあるんですよ。

住居費はいったいいつから投資になったのでしょうか。住居費は居住目的の支出であり投資とは分けて考えるべきです。そのうえで持家は賃貸より割安といえ、さらに少なくとも土地代は残ります。賃貸が持家より優れている点は経済的合理性ではなく手軽さです。そのメリットはどちらかというと住む前に享受してしまっているのです。

また、住宅ローンを組んだ場合は取得時に一括払いで団体信用生命保険に入るのが普通です。これは債務者が死亡したり働けなくなったりした場合に住宅ローンの残高が保険料で支払われ住宅ローンの返済義務がなくなり家も手放さずに済むものです。賃貸の場合はこれに入りませんから何かあったら家族には何も残りませんし、収入の稼ぎ手を失った状態でずっと家賃を払い続けます。同等の保証を生命保険に入るにしても65歳までに返済する場合30歳以降に加入すると団信より割高になってくることが多いようです。

そして、住宅ローンのリスクはどこまでいっても持家で回避不能な固有のリスクではなく、回避可能な物件選びに起因するリスクです。身の丈に合った物件を買っている人で破綻している人を個人的には見たことがありません。

というわけで

家リア

「賃貸は明らかに割高だから貯金しにくいわ、そのくせ払った住居費は1円も残らないわ、おまけにライフステージにあった物件は借りられない可能性が高いわ、どうにか老後にも入れたとしても収入細っているのにそれほど安くないわ、うっかり死んだり障がい者になったら遺族には何も残せず不安定にさせるわなのに、それで賃貸の方が合理的とかお前は俺と会う前から酔っていたのかw?

って優しく聞いてあげたら持家がほしいって言っていました。素直でいいですね。彼が富裕層で節税目的で敢えて損するために賃貸にしているんだという話でもでるかなと思ったのですが、不幸なことにそういう話はありませんでした。まだ30代半ばだし無理なく間に合いそうです。

なんだろう。先ほどのネットのご意見はもっとも「らしさ」はありますが、現実を無視しているような印象がありますね。もし持家に興味がでてきたひとは、こちらからいつでもお問い合わせください。いつでも、僕らプロがメールでお答えしますよ。そう。プロして———(既に出だしを忘れられているかもしれないけどめげずに)

それでは、Enjoy 家探し!

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(2023年1月10日公開)

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